WHOの『自殺報道ガイドライン』とは?

WHOの自殺報道ガイドラインとは

WHOの自殺報道ガイドラインは、自殺を巡る報道をするにあたって、自殺の助長につながらないよう、報道機関が守るべきことや行うべきことを示したものです。世界保健機関(WHO)は1999年より、自殺対策のための世界的な戦略をスタートし、2000年に最初の自殺報道ガイドラインを公表しました。

厚生労働省でも、その日本語訳版を公開しています。現在、厚生労働省より公表されている最新版は2017年にWHOにより公表された「Preventing suicide: a resource formedia professionals, update 2017」を日本語訳して、メディア関係者に向けに自殺対策の推進を呼びかけているものです。

メディア報道と自殺との関係性

新聞やテレビなどメディアによる自殺報道がなされると、自殺が増加するリスクが指摘されてきましたが、特に若手タレントなど有名人の自殺は、報道が活発化し刺激を与えてしまうおそれがあります。現在では、インターネットの普及によって、ネットのニュースサイトをはじめ、SNSによる情報拡散が自殺リスクを高めると懸念されています。

そのため、自殺予防を図っていくためには報道をするメディアの果たす役割は大きく、WHOの自殺報道ガイドラインの徹底を図ることが重要というのが、厚生労働省の認識です。

報道機関がやってはいけないこと

WHOの自殺報道ガイドラインで、報道機関がやってはいけないと示されているのは以下の内容です。

  • 自殺の報道記事を目立つように配置しない
  • 報道を過度に繰り返さない
  • 自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わない
  • 自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しない
  • 自殺に用いた手段について明確に表現しない
  • 自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えない
  • センセーショナルな見出しを使わない
  • 写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いない

報道機関がやるべきこと

一方で、WHOの自殺報道ガイドラインで、報道機関がやるべきことも定めています。

  • どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供する
  • 自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行う
  • 日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や、支援を受ける方法について報道をする
  • 有名人の自殺を報道する際には特に注意を払う
  • 自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時には慎重を期する
  • メディア関係者自身が自殺による影響を受ける可能性があることを認識する

メディア企業が徹底すべきこと

自殺報道を巡り、報道機関としての各企業がどのような責任と使命感を持って、どのような方向性で自殺を報道し、特集などを組んでいくのかが検討課題となります。

特にコロナ禍の影響か、若手の人気俳優であった三浦春馬さんを筆頭に、芦名星さん、藤木孝さん、竹内結子さんの自殺はテレビや新聞、週刊誌、ネットメディアで大きく報じられました。そのたびに、厚生労働省から「著名人の自殺に関する報道にあたってのお願い」として、メディアに対し、自殺の連鎖を防ぐために、WHOの自殺報道ガイドラインを守るよう文書が発信されていました。

ですが、すべてのメディアがガイドラインを遵守していたかというとそうではありません。有名人の自殺報道のたびに厚生労働省から文書が出されたにもかかわらず、ガイドラインに反する報道も見て取れました。特に各社の第一報はWHOの自殺報道ガイドラインに配慮しない形の報道が目立ったと言われています。

この状況を懸念し、自殺の予防に努める民間団体であるいのち支える自殺対策推進センターが、メディア各社に対して、WHOの自殺報道ガイドラインを踏まえた報道を徹するよう呼びかけるに至りました。これらの要請を踏まえ、抑制的な報道や相談窓口の報道を最後に必ず行うメディアが増えた一方で、センセーショナルな見出しで読者を煽るスポーツ紙や週刊誌やWEB記事など、過度に自殺報道を繰り返す状況は消えませんでした。

WHOの自殺報道ガイドラインの趣旨が依然としてメディアに十分浸透していないことがわかったのは残念なことです。各メディアを運営する企業は、この現実を深刻に受け止め、視聴率やPV数だけを優先させる姿勢ではなく、社会的に与える影響に配慮した姿勢が必要でしょう。

自殺に関するメディア報道は、その報道の仕方や内容によって、後追い自殺や模倣自殺を最小限に抑え自殺を抑止するることもできれば、自殺者を増やすおそれもあることを認識すべきです。

メディアが徹底すべきこととして、WHOの自殺報道ガイドラインでやってはいけないことを遵守するとともに、どこに助けを求めるべきかの情報を必ず含めるべきです。24時間365日助けを求めることができ、社会的に信頼を置かれている自殺対策サービスへとつなげる情報を報道するようにしたいものです。

参考資料

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