精神障害者に住居提供!開業保健師が大家になった理由とは?【NPO法人三重ナースマネジメント協会理事長 井倉一政さん】

開業保健師が大家になった理由

「いくらちゃん」の名で有名な「保健師大家」の井倉一政さん。岐阜協立大学で保健師コースの教員をする傍らさまざまな活動をしています。その中でも特筆すべき取り組みが2014年から三重県にて、自ら大家として精神障害者など生活に困っている方への住宅提供事業。

なぜ生活に困っている方への住宅支援事業に挑戦するに至ったのか、その経緯をインタビューさせていただきました。

井倉 一政いぐらかずまさ/看護学部/准教授

学位博士(学術)担当科目公衆衛生看護学概論/保健医療福祉行政論/プライマリヘルスケア活動論/地域看護診断学/チーム医療論/医療コミュニケーション論/在宅看護学概論/在宅看護学演習/在宅看護学実習/家族看護学/早期看護体験学習

井倉 一政 | 教員紹介 | 岐阜協立大について | 岐阜協立大学 GIFU KYORITSU UNIVERSITY

精神障害者などへの住宅提供事業に、開業保健師として挑戦

住宅提供事業とは?

精神障害者など生活困窮者への「住宅提供事業」といっても、パッとイメージがつきにくいかもしれません。

「なんで住宅提供事業が必要なの?安い賃貸の物件はたくさんあるのでは?」

「住宅を安く提供することって、生活困難者の自律を逆に遠ざけたりはしないのかな?」

「わざわざ保健師で大学教員である井倉さんがやる意義は何なんだろう?」

「住宅を安く提供できるにこしたことはないけど、お金のやりくりはどうしているんだろう?」

そんな疑問を僕は感じていました。

井倉さんの実施している住宅提供事業は、「何らかの理由で家を借りることができない人に対して、大家として家を貸しつつ、生活支援をする事業」です。

『住宅提供事業を行う開業保健師の活動の考察』という論文で、2014年から三重県で試みている精神障害者などに住居を提供する開業保健師としての活動がまとめられています。

(『住宅提供事業を行う開業保健師の活動の考察』より引用)

行政機関の保健師だった井倉さんが、個人として銀行から借り入れして物件を購入。

精神保健福祉士、障害者相談支援センター、生活保護担当課に空室情報を提供し、入居希望者を募っています。

上記の図の通り、入居者募集、入居、退去までの一連の流れを不動産管理会社と開業保健師である井倉さんが連携する仕組みとなっています。

2019年8月にはクラウドファンディングも実施して、88名の支援者から621,500円を調達。

経済的困窮者に家賃完全無料で住宅を提供することにチャレンジしています。

【クラウドファンディング』家賃完全無料の住宅!!三重県津市で生活に困窮している人に安心のすまいを!

なぜ住宅提供事業を提供しているのか?

もともとは行政の保健師で、現在は大学准教授である井倉さんが、精神障害者など家を借りるのに困っている方への住宅提供事業に挑戦しようと思った理由はなんなのでしょうか。

その背景には、ご自身の原体験と、行政保健師時代にみてきた家を借りるのに困る人たちの現状があります。

【原体験】誰しもが住宅に困る状態になりうる

自分自身がアルコール依存症患者として苦心した時期があり、お酒を飲んで踏切を眺めていたこともあったそうです。その経験から、誰しもが住居に困る状態になりうるということを理解し同じように困っている人を助けたいと考えているといいます。

また、その考えのもとには「アルコホーリクス・アノニマス」の思想も影響していたそうです。

「アルコホーリクス・アノニマス(Alcoholics Anonymous)」とは、アルコール依存症の自助グループのこと。「匿名のアルコール依存者たち」という意味です。1935年にアメリカで始まり、日本でも各地で自助グループのミーティングが実施されています。

この自助グループのプログラムの最後に、「自分が学んだことをもとに、他のアルコール依存者を助けていくことで、自らも飲酒から遠ざかることができる」という考えがあります。

P18のスライド「手渡していく」

誰しもがアルコール依存や、住居に困るような当事者になりうるということから、同じように困っている人を助けたい想いでさまざまな挑戦をされているということです。

【直面した社会課題】多くの人が家を借りることができない

行政機関で働く保健師として、たくさんの精神障害者の方を支援する中で、精神障害者の方が家を借りることができない問題に直面したといいます。

精神障害者の方がもらえる障害年金は、障害等級2級だと月額約6.5万円。これでは生活はままなりません。家賃は1円でも安くしないといけません。

また、金銭的余裕がないだけでなく社会的に信用を得られず契約を断られるという問題もあります。

少し古い調査データにはなりますが、平成20年3月に神戸市内の民間賃貸住宅を抽出し3100人の大家さんに実施したアンケートで、障害者世帯は入居不可と「66.9%」の大家が回答しています。家賃を回収できないリスクを大家としては背負いたくないため、社会的信用の低い人には家を貸したくないという正直な気持ちが反映された結果と言えるでしょう。

もし精神障害で入院していた方が退院し、家を探していたときにほとんどの賃貸物件の入居を断られてしまったら。社会復帰の大きな妨げになることは言うまでもありません。

大家さんの声

実際に行政保健師時代に精神障害者の方の住居探しを手伝って大家さんを回っていた際に、「保健所の人が付いてくるなんて、よっぽど病状がひどい人なんですね。うちでは貸せる部屋はありませんよ。」と言われたこともあったそうです。

家に困る人たち

精神障害に限らず、家に困る人はたくさんいます。生活保護を受けている家庭、DV被害にあっている人、外国人、アルコール依存症、車椅子生活の方、高齢独居、高齢者夫婦世帯などなど。

言葉は適切かは分かりませんが、こうした「生活に困窮する方」はたくさんいるのが日本の実態です。

公務員(行政保健師)をしながらでも、大家になれる!?

公務員(行政機関の保健師)だった井倉さんは、生活困窮者に住宅提供する事業を構想し、さまざまな協力者を募るために奔走していたそうです。多くの人が想いに共感は示すものの、残念ながらお金を出してくれる人はいなかったといいます。

その中で、大きな転機になったのがとある会社経営者の方からの一言。

「必要性を自覚している井倉さんが、自分でやったらどうなの?公務員しながらでもできるんじゃない??」

これが一つのきっかけとなり大家としての挑戦が始まります。

自分で始めたきっかけ

調べた結果、住宅提供事業(=大家業)は、一定の条件のもとであれば公務員をしながらでも挑戦できることがわかり、事業計画を作って銀行から資金を借り入れ。勤務先の近所である三重大学周辺の物件(長屋1棟4室と戸建て2戸)を購入し、大家として精神障害者への住居提供事業を開始しました。

2018年にはNPO法人三重ナースマネジメント協会を立ち上げ、NPO法人としてこの事業を継続しています。

(2019年9月に国土交通省からヒアリングを受けた時の様子)

NPO法人三重ナースマネジメント協会の事業内容

  • 貧困家庭への無償住宅提供事業
  • 看護職向け研究支援事業
  • 看護職による出張出前事業
  • 訪問託児
  • 子育て支援相談事業
  • 健康相談事業
  • 安濃温泉地域活性事業

NPO法人三重ナースマネジメント協会では、住宅提供事業と合わせて、看護師・保健師のキャリア支援を軸にした活動を幅広く実施。子どもから高齢者、障害者もみんな一緒に、温泉施設で健康相談やマジックショー、無料ヨガ教室などをしています。(※最近は新型コロナウイルスの影響もあり対面でのイベントは中止しています)

NPO法人 三重ナースマネジメント協会は中長期目標として、以下の3つを目指されています。

  • 井倉さんの「障害者等への住居支援」での経験をもとに、グループホーム事業(新規法人)を開始すること
  • 看護職のキャリア支援のプラットフォーム化
  • 地域活動が得意な保健師の活動を強化し、地域のイベントなどで活躍する保健師による健康測定、健康相談、健康教室の企画を実施する(オンライン実施も含む)こと

ご自身の原体験と、現場で直面した社会課題に向き合い、圧倒的な行動力で1つ1つ実現していく姿勢が本当にかっこいいなと感じました。

(物凄くアクティブに活動されていて、今回はご紹介しきれなかったこともたくさんあります・・・!)

日本初!保健師のオンラインサロン『エンタメ保健師LABO』

「保健師」という枠にとらわれずに、大家としても事業を経営する井倉さん。

面白い保健師をもっと広めるべく、日本初の保健師のオンラインサロン「エンタメ保健師LABO」も立ち上げて運営されています。

エンタメ保健師LABO

一般的なオンラインサロンでは、参加者が会費を支払います。しかし、いくらちゃんの運営しているエンタメ保健師LABOでは「参加者が毎月5000円をもらう」という非常にユニークな仕組み。

「全国のオモロい保健師が発掘され、世に出ていくお手伝いをしたい」との想いでサロンを運営されているそうです。

数々の挑戦を続ける大家保健師の井倉さんの今後のご活躍にも目が離せないですね。

ぜひ面白いチャレンジをしてみたい保健師さんは、「いくらちゃん」こと井倉さんにご連絡してみてください!

参考

井倉一政さんの書籍

メンタルヘルスに関する地域包括ケアシステムモデルの考察』はクラウドファンディングを経て井倉さんが個人出版されたKindleの書籍です。

開業保健師研究』は井倉さんが編集長をしている開業保健師の研究誌です。これまで2020年3月と2021年3月の2回出版されています。

https://twitter.com/ikurahokenshi/status/1426369956921298946

2021年10月に、自殺予防を志す人のオンラインコミュニティ『自殺予防共創ラボ』にてオンライン勉強会に登壇いただきます。

興味のある方は入会を検討いただけたら嬉しいです!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。