パパゲーノ効果とは何のこと?【自殺予防の基礎知識】

「パパゲーノ効果」という言葉をご存知でしょうか?パパゲーノ効果とは、自殺に関する報道においてよく用いられる言葉です。

「パパゲーノ効果」とは何なのか、またどのような点で自殺予防と深い関係があるのかなどについて説明していきます。

庄司
庄司

著名人の自殺が報道される時、「ウェルテル効果」と「パパゲーノ効果」についてもワイドショーなどで取り上げられることが増えてきました。

この記事では「パパゲーノ効果」についてわかりやすく解説していきます。

パパゲーノ効果とは?

パパゲーノ効果とは、「自殺をふみとどまった人の物語が、自殺を抑止する効果があるかもしれないという仮説」のことです。

パパゲーノ効果が提唱された最初の研究論文

2010年にウィーン医科大学のThomas Niederkronthaler (トーマス・ニーデルクローテンターラー) らが、報道の自殺予防効果を世界で初めて実証研究し、「パパゲーノ効果」と名づけて「Role of media reports in completed and prevented suicide:Werther v. Papageno effects」という論文を発表しました。

これが初めてパパゲーノ効果が提唱された研究です。

この研究では、「自殺企図や自殺死亡を伴わない形で自殺念慮へ言及があった記事数」と、「その後1週間の自殺率」が負の相関を示すことを明らかにしました。

自殺予防に有効だと証明されたのは大きく以下の2つでした。

  • 自殺行為そのものを報じるのではなく、自殺念慮について考える内容 (死ぬほど辛い逆境にも耐えて力強く立ち上がった人の存在を伝え、生きることの意味を考えるなど)
  • 自殺したくなったときに相談を受けてくれるサービスについての情報提供

つまり、上記のような内容の報道が「自殺予防効果を持つ『可能性』がある」という仮説が生成されました。

やすまさ
やすまさ

この研究では、2005年1月1日〜2005年6月30日のオーストリアの主要11誌に書かれた「自殺」というキーワードを含む1055記事のうち、一部を除外して497記事が調査対象になりました。

3人の研究者がひたすら記事を読んで、分類コードをつけて、「どの分類の記事が報道された時に、どんな自殺率になったか」を分析しています。

庄司
庄司

ものすごく地道な作業ですね・・・!

「自殺」というキーワードを含むが研究対象から除いた記事

  • 自殺をメタファーとしてのみ使用したもの(n = 92)
  • 自爆テロについての記事 (n = 381)
  • 自殺について簡単に言及しているが、話題は自殺とは関係ないもの
  • 映画やテレビの番組表や広告 (n = 58)

「パパゲーノ」という言葉の由来

「パパゲーノ効果」の「パパゲーノ」という言葉は、モーツァルトが残した最後のオペラ『魔笛』に由来します。

主要な登場人物の1人であるパパゲーノが、愛するパパゲーナを連れ去られてしまって絶望し、自殺しようとしていたところ、3人の子どもの姿をした精霊が「魔法の鈴」を使えと言ってパパゲーノを救う話です (ちなみに3人の精霊は、パパゲーノよりも前に別の登場人物が自殺しようとするのを救っています)。

パパゲーノ効果はまだ十分に証明されていない

一見、このパパゲーノ効果は自殺報道における希望のように思えます。実際テレビやメディアでもパパゲーノ効果が自殺予防に有効であると説明される場面は時々見掛けられますが、現状過度な期待はできません。その理由として「研究が進んでおらず、明確に自殺予防効果があると証明できていない」ことが挙げられます。

やすまさ
やすまさ

2021年12月時点で、PubMedで論文検索をすると「Werther(ウェルテル)」では543件の論文がヒットしますが、「Papageno(パパゲーノ)」では25件の論文しかヒットしません

パパゲーノ効果とよく比較される理論「ウェルテル効果 (著名人の自殺報道のように自殺した人の物語が、自殺を助長してしまうという効果) 」については、その効果を裏付ける研究が多く、信頼できる効果だと言われています。

各国で実施された自殺報道と自殺率の関係を研究した調査データを統合して再解析したメタアナリシスでも、自殺報道がその後の自殺を増加させる効果があるということがわかっています。

2010年に初めてパパゲーノ効果が提唱されましたが、心理学者の末木氏は現在でも当時提唱された概念はそれ以上の発展を見せていないと言います。

つまり、パパゲーノ効果は自殺予防効果がある『可能性がある』という段階に他なりません。

だからこそ、現状においてはパパゲーノ効果に過度な期待をするのは賢明とは言えないため、今後も研究等を通じて信頼できる効果かどうかを検討していく必要があります。

やすまさ
やすまさ

パパゲーノ効果についての「メタ分析」の論文が2022年に初めて発表されました。

これからパパゲーノ効果もっとパパゲーノ効果の研究が進んでいくかと思います。

 「ウェルテル効果」とは?著名人の自殺の報道が危険な理由

生きることの促進要因を増やすために

コロナ禍によって失業や人との繋がりの希薄化など、自殺の背景となる要因が増え、自殺のリスクが増えてしまうという事態に。昨年 (2020年) は特に女性や若者の自殺が増加しており、その中には著名人の自殺報道が引き金になったと考えられるケースが数多く見受けられます。

では、このような状況を打開するにはどうすればいいのでしょうか?ライフリンクの清水氏は「生きることの促進要因」が重要だと語っています。

「自殺のリスクが高まるのは、『生きることの阻害要因』が『生きることの促進要因』を上回ったとき。つまり、生きることを後押しするさまざまな要因の全体よりも、生きることを困難にさせるさまざまな要因の全体の方が大きくなった状態のときです。裏を返すと、いくら阻害要因が大きくても、促進要因の方がそれを上回っていれば自殺のリスクは高まりません。」

新型コロナ禍で急増する女性、若者の自殺。ライフリンク清水さんが説く「自殺は個人ではなく社会の問題」

促進要因として挙げられるもの (一部抜粋)

  • 将来の夢
  • 家族や友人との信頼関係
  • やりがいのある仕事や趣味
  • 経済的な安定
  • 楽しかった過去の思い出

日々ニュースを見ていると、コロナ禍によって社会全体で生きることへの阻害要因が増え (特に経済面) 、促進要因が減っているように感じます。だからこそ、生きることの促進要因を増やすこと、またその過程で人との繋がりを持っておくことが重要だと考えています。

少しの希望だとしてもパパゲーノ効果に期待したい

パパゲーノ効果に過度な期待はできないと説明しましたが、「阻害要因と促進要因とのクッション」としてパパゲーノ効果の可能性に期待できる部分はあるのではないかと考えています。

パパゲーノ効果とは「自殺をふみとどまった人の物語が、自殺を抑止する効果があるかもしれないという仮説」のことです。

だからこそ、生きることへの阻害要因が増えて自殺のリスクが高まったときに、自殺を踏みとどまった人の物語を知ることが、自殺を思いとどまらせて生きるための一歩を踏み出すきっかけ (将来の夢を考えてみる, 身近な人との繋がりを増やしてみるなど) に繋がるのではないでしょうか?

しかし、普段生きている中で自殺された方の報道については目にすることが多い一方で、自殺を踏みとどまった方の報道はあまり目にすることがないと思われたかもしれません。メディアの特性上、視聴率が取れるようなセンセーショナルな話題を取り上げたり、クリック数を稼げるような見出しをつけた記事が多くなるのはやむを得ないことかもしれません。

自殺を踏みとどまった物語を知りたいときはぜひ、NHKの「わたしはパパゲーノ~死にたい、でも、生きてる人の物語」というサイトを訪れてみてください。

ここでは、「パパゲーノ体験」として死にたい気持ちを抱えた体験、そのような気持ちとの折り合いの付け方、また気持ちが軽くなるための自分なりの工夫やきっかけとなった出来事などが紹介されています。

やすまさ
やすまさ

2022年3月に「株式会社パパゲーノ」という名前で、

メンタルヘルスアート事業を展開する新会社を設立しました。

おわりに

さて今回はパパゲーノ効果について説明してきましたがいかがでしたでしょうか。

筆者自身、適応障害の症状がひどかったときに希死念慮を抱きましたが、今こうして生きています。当時のわたしを思いとどまらせてくれたのは「将来の夢」でした。自分のありたい姿や、歩んでいきたい人生を考えたときに「今死んだら、これは全部叶えられないんだ」と思ったことが、死ぬのを踏みとどまった1つのきっかけになっていたように思います。また、その将来の夢を応援してくれる周りの人の存在も、わたしが生きる理由になりました。

もし今、生きているのが辛いと感じている方は、どうか1人で抱え込まずに周りの人を頼ってみてください。家族や友人ではない「誰か」に話を聞いてもらいたいと思ったときは窓口もあります。

  • よりそいホットライン (https://www.since2011.net/yorisoi/)
  • 生きづらびっと (https://yorisoi-chat.jp/)
  • いのちSOS (https://www.lifelink.or.jp/inochisos/)
庄司
庄司

それでは、皆さまが今日という日を健やかに過ごせますように。

ライター:庄司友里 編集:田中康雅

参考資料

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