小さな会社の産業保健を置き去りにしないためのアイデア【壁打ち相手募集中!】

ブラック企業、過労死、過労自殺、残業規制、健康経営、パワハラ。そういうキーワードがバズって日本の会社で働く人の健康についてこの10年くらいでだいぶメスが入ってきています。でも、それはある程度大きな会社で働く人の話。日本の産業保健は、50名未満の小さな会社やフリーランスを置き去りにしてきているのが現状です。

前職の株式会社iCAREも、メインターゲットは50名以上の企業。SaaS企業としては、エンタープライズをどれだけ攻略して高いARRを取りに行けるかが事業成長には欠かせないので、当然従業員が数名の会社ではなく、数万名の会社をいかに受注するかを考えます。

法律や民間企業、スタートアップのビジネスでもなかなかターゲットにされず置き去りにされてきた、小さな会社やフリーランスの産業保健を変えるビジネスを創りたい気持ちが日に日に強くなっているので、アイデアをまとめておきます。

50名未満の事業場でもやらないといけないこと

「50名未満の小さな会社で義務付けられている産業保健」は2つしかありません。

  • 長時間労働者への面接指導(単月80時間超・疲労蓄積・申し出)
  • 定期健康診断と医師による意見聴取

もちろん、何を産業保健の範囲と定義するかにもよるのですが、いわゆる産業保健の中だと上記2つのみとするのが一般的な考え方です。長時間労働をしすぎた人のケアと、健康診断を受けてやばい人はケアするということになります。

この2つの法律を守るだけだと、PDCAを回す体制が特にないので、手続き的にこの2つをこなすだけになります。従業員の健康維持・増進にうまく繋げられているケースは稀です。

小さな会社にとってこの2つの業務は「健康保険に加入する」「給与計算をする」「確定申告をする」といった、やらないといけないオペレーションの1つという位置付けで、その中でも優先順位はかなり低い方です。

給与を払わないとすぐに従業員と揉めてトラブルになりますが、長時間労働者への医師による面接指導の勧奨はしなくても何も起こりません。定期健康診断をやらなくても、気づかない従業員も少なくないですし、受診後に医師による意見聴取が義務になっていることを知っている人はほとんどいないでしょう。

経営者も知らないことが多いので、「創業から一度も健康診断をやっていない」「健康診断を受けてはいるが受けっぱなしで医師による意見聴取をしていない」という事業場は意外とよくあります。

小さい会社で産業保健が失敗している背景

  • 法律で労働安全衛生管理体制が整備されPDCAが回るようになるのが50名以上の事業場のみになっている(産業医/衛生管理者/衛生委員会/etc)
  • そもそも労基法や安衛法が大企業を前提に創られてきたのでフリーランスや小さい会社を想定していない
  • 財布が小さいので民間企業もこの市場でビジネスを積極的に創っていない(市場の失敗)
  • リスク分散の小ささと規模の小ささから事業が不振だと組織への影響が大きすぎる
  • 健康問題が顕在化する頻度が低いので対策のROIが見合わない上に母数が小さく対策難易度が高い
  • 本業以外に投資できるお金がない(ROIの判断がよりシビア)
  • 健康への投資はリターン回収に数年の時間がかかるが小さい会社は短期で投資回収できないと資金繰りが難しい
  • バックオフィスの人材がいないor1人で人事・総務・経理などを全て兼任している

小さい会社で働くひとの健康を守るアイデア

従業員側

  • 【セルフケア】そもそも産業保健に依存せずセルフケアでなんとかできるようにする
  • 【キャリア自律】逃げ道としていつでも転職できるようにしておく(健康を所属企業に依存させない)

企業側

  • 【広域化】1つの企業という枠組みに縛られず、健保単位や複数企業で資源を共有する座組みを組むことで小さい会社でも規模の経済を活用できるようにする
  • 【外部資源】小さい会社ほど内部通告がしにくいため無料or安価な外部窓口を活用する
  • 【公的資源】地域の産業保健センターや助成金を活用する
  • 【売上向上】兎にも角にもまずは売上を上げて事業を成長させる
  • 【売上分散】1つのキャッシュポイントへの依存を減らして外部環境の変化に強くする
  • 【資金確保】自己資本比率を高めつつ借りられる時に借りておく
  • 【IT活用】ITを活用して最小の工数とコストで成果を得られるようにする
  • 【非属人化】属人的な業務をなくして人に依存しない仕組みを創る
  • 【雇わない経営】人を雇用することをやめる

産業保健ビジネスを創る事業者側

  • 【toCモデル】toCとtoBの境目をなくしたサービスの方がフリーランス/個人事業主もカバーできて理想的かもしれない(既存の産業保健ビジネスはBtoBtoCを前提としたモデルがほとんど)
  • 【PHR事業者】健康情報をデジタル化することに膨大なオペレーションコストがかかっていたところを、マイナポータルからAPI連携と本人同意でほぼゼロコストで健康情報の活用ができるようにする

協会けんぽ(全国健康保険組合)

  • 【事業主単位のメリット制】不健康な会社(=療養費・傷病手当金等の支給金額が多い)の保険料率を上げる負のインセンティブ設計をもっと強力に事業主単位でかけていく→不健康な会社には誰も就職しなくなる

政府

  • 【FAQ公開】労基署の労働相談窓口のデータベースから人事向け・従業員向けのFAQを公開して無駄な電話での問い合わせを減らす
  • 【マイナポータル】マイナポータルの社会実装とPHR事業者の支援
  • 【電子化】手続きの電子化推進、無駄な申請や報告の撤廃
  • 【規制緩和】限定列挙でプロセス規定を積み上げた結果、時代錯誤になった部分を規制緩和していく
  • 【助成金・補助金】継続して中小企業の産業保健や経営支援に助成金・補助金を提供する
  • 【地域産業保健センター】地域産業保健センターの実効性を上げる

どうやって働く全ての人の健康を守っていくか?

ひとまずざっと中小企業で働く人の健康にまつわるステークホルダーについて、どうなっていくべきかのアイデアを整理してみました。

最後に、「産業保健とはどうあるべきか?」を昔考えていたときに書いたnoteを共有させていただきます。

フリーランスや小さな会社で働く人の健康を守るために、良いアイデアがあればぜひ議論させてください!

TwitterでDMいただけると嬉しいです。