株式会社Mentallyが運営するピアサポートに特化したこころのオンライン相談アプリ「mentally(メンタリー)」が2022年9月末にサービス終了することを2022年9月23日に発表しました。期待されていたメンタルヘルス事業なだけにとても残念です。
mentallyがサービス撤退になった理由を分析して、3つに分けて解説します。
mentally(メンタリー)とは?
mentallyとは、2022年7月にリリースされた心のオンライン相談サービスです。簡単にいうと「メンタルヘルス」に特化したYahoo!知恵袋のようなイメージ。悩みを投稿し、無料で回答をもらえるWEBサービスです。
mentallyと他のオンライン相談サービスとの違い
通常の健康相談サービスとの違いは「ピアサポート(当事者による支え合い)」という点です。医師や看護師、心理士など医療系の専門家ではなく、「精神疾患を経験された当事者」が「メンター」と呼ばれていて、70名ほどのメンターの方が悩みに回答してくれます。
mentallyのビジネスモデル
mentallyのビジネスモデル(お金の稼ぎ方)は、有料相談に繋がった際の20%を手数料として取るモデルです。
30分1980円の有料相談をすることができて、その20%が手数料でmentallyの売上になります。つまり、1件あたり400円の売上がmentallyの運営側には入るということです。
「mentally(メンタリー)」のサービス詳細は以下の記事でご紹介しています。
mentallyがサービス終了になった3つの理由
あくまで外部の人間が調べて考えた仮説ですが、mentallyがサービス終了になった理由を3つに分けて整理していきます。
①質問へのメンターの良質な回答の安定的な供給が難しいこと
ピアサポートの多くは「善意あるボランティア」によって運営されています。自助グループ、自助会などと呼ばれて各地域にあります。アルコール依存症の自助グループ「アルコール・アノニマス」などが有名です。株式会社リヴァが運営している「双極はたらくラボ」という双極性障害をお持ちの方で働いている人、働こうとしている人に絞ったコミュニティなどもあります。最近ではTwitterで同じ疾患や悩みを持つ人を探してDMして出会ったりしやすくなっています。
mentallyに投稿された悩みに回答して有料相談に繋がった場合は、メンターに報酬が入ります。逆にいうと、有料相談にならなければメンターにとっては無報酬であまりメリットがないということになります。
コトリー、first call、LINEヘルスケア、リミー、Carelyなどオンライン相談のサービスは医師、臨床心理士、公認心理師、看護師、保健師など医療系の専門資格を持った方が相談対応をしています。それでも回答の「スピード」と「質」のクオリティコントロールは難しいです。
・Yahoo!知恵袋のように悩みに回答したらポイントがもらえるようにする
・Twitterのフォロワー数のように社会的な評価の証明(ソーシャルキャピタル)を得られるようにする
・有料相談で稼ぎやすい場所にする(悩みの数を増やす、自分の得意な悩みに通知がくるようにするなど)
・DAOのような形で相談対応したらmentallyのトークンが付与してmentallyの運営にメンターがより当事者意識を持ちやすくなるような仕組みで運営する
②有料相談がほぼ発生せず売上が立たなかったこと
自分が投稿した悩みに無料で回答をもらって満足してしまい、有料での相談につながりにくいということがあります。10人が悩みを投稿して、有料相談につながるのは1人いればいい方じゃないでしょうか。有料相談に繋がる率(コンバージョン率)は1%〜10%程度だったのではないかと思います。
mentallyの運営側の売上は、有料相談1件あたり「400円」です。仮に月の経費が「50万円」だとしたら「1250件」の有料相談の取引が生まれないと黒字化できない計算になります。
そして、有料相談へのコンバージョン率が「10%」だとしても、月に「1万件以上」悩みの投稿がないとビジネスとして成立しないことになります。
どういう算段だったかわかりませんが、売上の目処が立たず撤退を余儀なくされたのかなと思います。
・価格を自分で根付けられるようにして取引量を増やす
・専門家も入れるようにして高額の取引を増やす
・ビジネスモデルを変えて精神疾患当事者のユーザー基盤を活かした製薬会社への広告モデルの事業展開などに切り替える
③自殺念慮などイレギュラー対応が必要な相談があったこと
想定以上に自殺や希死念慮(死にたい気持ち)に関する相談が多かったということも撤退要因として大きそうです。
例えば、メンヘラの語源になった2ちゃんねるのメンタルヘルス板や自殺しようとしている人の掲示板には、自殺リスクの高い人が集まっていて、そこでの当事者同士のコミュニケーションは自殺リスクを高める可能性が指摘されています。末木先生『インターネットは自殺を防げるか』という本などで、自殺のハイリスク者がインターネットを用いたウェブコミュニティでやり取りをする効果について分析されいます。
そのため、自殺リスクの高い相談については、専門家の適切な介入や、専門の相談機関へ繋ぐ個別対応が必要です。
悩みの投稿に対する個別のトラブル対応やイレギュラー対応が多く、運営が回らない部分もあったのかもしれないなと思います。
こちらの黄色い表紙の『インターネットは自殺を防げるか』から発展して、NPO法人OVAでのリスティング広告を用いた自殺相談窓口のサービス「夜回り2.0」の効果検証や、自殺対策への税金の支払い意思能力などの研究結果をまとめた『自殺対策の新しい形』もわかりやすくまとめられていておすすめです。(ちょっと金額が高いですが)
・ユーザーへの教育、メンターへの教育により適正な件数に抑える
・NGのキーワードを決める
・危険なキーワードが投稿されたら自殺相談専門の窓口に繋ぐようにする
この点に関してはサービス継続を検討する上で1番難しいポイントだったんじゃないかなと思います。サービスが全然使われなくても、放置しておいて月に何件か有料相談が起きて数千円売上が入るような形で半分WEBメディアに近い状態で残しておくこともできたかと思います。しかしながら、わざわざサービスを終了する理由は「ユーザーにネガティブな影響を与えかねない」と判断したからだと思います。
mentallyのサービス終了から学ぶべきこと
外から見てる人間がとやかく批判や意見することは簡単ですが、実際にサービスを開発しユーザーに継続的に価値提供していくことは相当難しいですし、実際のところは当人にしかわからない部分も多いと思います。
ただし、mentallyのサービス撤退からメンタルヘルス関連の活動をしている方が学べることは多そうだなと感じていたため僕なりの分析をまとめさせていただきました。
mentallyはカウンセリングや精神科受診がなかなか浸透しない日本において、ピアサポートによってメンタルケアをより多くの対象へと広げていく可能性を秘めた素晴らしい挑戦だったと思います。
今回の撤退から得られた学びを元に、メンタルヘルスに挑む方がより活動を持続可能にしていけることを心から願います。
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