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産業保健の主役は「企業」から「従業員」に変わる【web3×産業保健】

こんにちは。パパゲーノのやすまさ(@yasumasa1995)です。2022年9月17日に日本産業保健法学会の一般演題に登壇して、「個人が主役の産業保健のあり方」についてお話させていただきました。その概要をご紹介します。

今後はもっと「個人」が主役の産業保健になっていく!

産業保健に起こる2つの変化

①個人がデータを所有・移転するインフラが整うこと
②DAOなど労働形態が多様化すること

この2点がweb3の社会実装で急速に進むことが予測されます。(数年の時間軸なのか、数十年なのかはわかりませんが)

その結果として、産業保健については以下の2つの論点が生じます。

  • ①業務の都合で企業が健康情報を管理する正当性の喪失
  • ②労働者保護の正当性の喪失 / 現行法とのミスマッチ

今後必要になりうる産業保健の論点としては、

  • ①健康診断やストレスチェックなど「プロセス規定」の産業保健の規制緩和
  • ②結果を重視する「アウトカム型の産業保健」への転換
  • ③企業が所有しアクセスできる健康情報の削減

などがあるかと思います。少しでもご参考になれば幸いです。

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web3とは何か?

web3(ウェブスリー)という言葉は最近メディアでよく見るようになったので、聞いたことある方も多いかと思います。

2022年6月27日の「経済財政運営と改革の基本方針 2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」にもブロックチェーン、web3、NFT、DAOについて明記されています。2022年7月15日には経済産業省が「Web3.0政策推進室」を設置していて、日本政府として「web3」への注力を明示しています。

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web3とはイーサリアムの共同創設者であるギャビン・ウッドが提唱した言葉で、明確な定義があるわけではありません。ブロックチェーン技術を活用した思想、技術、サービスの総称を指したり、web2と呼ばれるメガプラットフォーマーによる中央集権的なサービス提供を自律分散的にしていくようなムーブメントや潮流を指すこともあります。

特定の企業や国がデータを保有するのではなく多数で分散保有することで、中央の巨大な管理者を必要とせずにデータを個人が所有、移転できるのが特徴です。

web3と健康情報管理の未来

診療録や健康診断結果、遺伝子情報などの健康情報について、「データの自決権が患者にないこと」が大きな課題と言われています。

企業が管理する健康情報

企業が管理する健康情報は、「健康診断の結果、病歴、その他健康に関するもの」と規定されています。健康診断、ストレスチェック、面談記録、診断書、保健指導の記録などです。

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健康情報を個人が持ち運べない問題

医療機関を変更したい場合は、主治医にお金を支払ってアナログに「紹介状」なるものを書いてもらうという謎なルールになっています。

転職したら企業の健康診断結果は次の会社へと移転することはできません。もっというと、前職に自分の健康診断結果を破棄してもらう権利すら労働者にはありません。労働安全衛生法により、企業が健康診断結果は5年間保存することが義務付けられています。

つまり、労働者は盲目的に政府と企業への信頼をしなければ、労働できない構造になっています。

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なぜ企業が労働者の健康情報を管理しているのか?

なぜ企業が従業員の健康情報を管理しているかというと、「実務上の都合」が大きいです。企業には安全配慮義務があり、労働衛生の3管理の1つである健康管理には健康情報が必要なのですが、健康情報を企業が所有し管理する正当性はありません。従業員に健康診断結果を管理させると、紛失してしまって、適切な管理ができないので、仕方なく企業側に管理の義務を課しているというのが日本の労働安全衛生法の現状かと思います。

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また、元々は「製造業」中心で「終身雇用」が当たり前の社会の中で作られた制度を、継ぎ足し継ぎ足しで条文をものすごく長文にしてできているのが今の産業保健制度だからという歴史的背景もあります。

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健康情報管理の未来

ブロックチェーン技術の改竄に強い特徴を生かして、エストニアでは電子カルテの分散管理を実現しています。処方せん受付、保険請求をすべてオンライン化して、健康情報をどこにでも持ち運べて、誰がアクセスしたのか透明性高くわかる仕組みとなっています。転記作業がなくなり「804年」分の労働時間を削減とも言われています。

日本も似たような仕組みは実現しようとしていて、マイナポータルへの健康情報の紐付けを始めています。日本政府がブロックチェーンを使うにしても使わないにしても、「PHR(個人が健康情報をいつでもどこでも持ち運べる状態)」と「業務工数の削減」は日本の喫緊の課題です。医療機関の電子カルテ、企業の定期健康診断などの規格の標準化と一元管理は今後も進んでいくと思います。また、民間企業がマイナポータルと似たような仕組みを独自に開発し社会実装していくことも充分に考えられます。

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例えば、従業員の健康診断結果を個人が所有・移転できるようになり、企業は「法定項目を受診したかどうか?」「法定項目の中で有所見の項目があったかどうか?」という情報にアクセスできるだけで、具体的な「体重がいくつか?」「血圧がいくつか?」という数字にはアクセスできない仕組みも技術的には実装可能です。そして企業の担当者がどんな目的でいつ自分の健康情報にアクセスしたのかも透明化して自分で知ることができるというのが、健康情報管理の理想的な未来なのかなと思います。

DAOと労務管理の未来

DAOが株式会社と併存し、多くの労働者が複数の株式会社やDAOで働き、複数の報酬を得る社会では、現行の労働法に基づく労務管理の常識は通用しなくなることが自明です。

DAOとは何か?

DAOとは分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization)の略。端的に言うと、経営者が不在で労働者しかいない株式会社のようなイメージです。株式の代わりに「トークン」を用いて、サービス開発に貢献した人にトークンを自動的に付与するようなプログラムが組まれています。

DAOはある意味で、「全員が使用者」でもあり、「全員が労働者」でもあります。あるいは、「プログラムが使用者」とも捉えられます。

DAOとは

DAOの3つの要件

DAOにも明確な定義があるわけではないですが、以下の3つが一般的な用件とされます。

  • ①中央集権的な管理機構の不存在
  • ②コミュニティメンバーによる自律的な組織運営
  • ③組織運営におけるスマートコントラクトの活用

DAOの事例

例えばビットコインがDAOの一番の成功事例と言えます。ビットコインの裏側には中央の管理者は不在で運営している人はいません。ですがトヨタ自動車を超える時価総額となり、大きな経済圏が動いています。

日本だと山古志村のDAOの事例が有名です。人口800人の限界集落を活性化するために、デジタルアート×電子住民票として、NFTを発行しています。NFT所有者を「デジタル村民」として村を盛り上げる施策の投票などに参加できます。

上述の3つの要件に照らし合わせると、前澤友作氏の「MZDAO」は現時点でDAOとは呼べないものになります。

DAOの法的論点

現状は、「DAOを法人として認めるべきなのか?」という議論がされています。「NFTホワイトペーパー(案)Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略」には以下のように記載しています。

日本法におけるDAOの法的位置付け、構成員・参加者の法的な権利義務の内容、課税関係等を早急に整理し、DAOの法人化を認める制度の創設(例えば、国家戦略特区を利用した「DAO特区」、「ブロックチェーン特区」の指定等)を早急に検討すべきである。

NFTホワイトペーパー(案)Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略

法人格があると、以下の4つのことができるようになります。アメリカのワイオミング州ではDAOの法人化を2021年4月に認めていて、一定の条件下でDAOが有限責任会社(LLC)として認められるようになっています。

  • ①契約主体になれる
  • ②法令遵守の主体になれる
  • ③許認可を取れる(人材紹介免許など)
  • ④有限責任になる

DAOの構成員は労働者なのか?

DAOの活動が日本で行われた時に、属地性に基づき日本の労基法等に基づき労働者性や使用者性を認めるべきなのか?DAOに向けた新たな産業保健のあり方を検討すべきか?それとも産業保健は不要なのか?まだまだ未整備の状態です。

DAOの構成員は、ストックオプションを付与された労働者や管理監督者にも似ていて、無償ボランティアにも似ていて、キャピタルゲインが得られるギグワーカーにも類似します。

DAOとストックオプション

DAOで働く人は、ストックオプションを付与された労働者や管理監督者に似ています。自社の所有を部分的にしながらも、労働者でもあるという状態です。キャピタルゲインを得られる労働者とも言い換えることができます。

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DAOと無償ボランティア

DAOで働く人は、NPO法人などの無償ボランティアにも似ている側面があります。

特に類似するのは、報酬が法定通貨では支払われないということです。NPO法人では、心理的な満足や経験を報酬として提供するのに対し、DAOではトークンを報酬として提供します。トークンは全く価値のないデジタルデータになるかもしれないですし、将来的に価値がつくかもしれません。

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DAOとギグワーカー

DAOで働く人はギグワーカーにも似ています。ギグワーカーやフリーランスと呼ばれる人は個人事業主です。そのため使用者(経営者)という扱いになっていて労働基準法は適用されません。

しかしながら、実態としては力が弱く労働者に近い側面が指摘されています。例えば、Uber Eatsの配達員は労働者に近いでしょう。DAOの構成員とギグワーカーの最大の違いは「キャピタルゲイン」を得られるか否かです。

Uber Eatsの配達員はUberの株式を保有していることは滅多にないかと思います。

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個人が主役の社会で産業保健はどう変わるのか?

個人(従業員)が主役になった産業保健のあり方について、今後も考えていけたらと思います。

きっとさまざまな点で、「そもそも産業保健は必要なのか?」が見直されていくことでしょう。