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『自殺実態白書2008』とは?自殺実態を調査した日本初の報告書

自殺実態白書

『自殺実態白書2008』をご存知でしょうか?2008年といえばもう10年以上も前ですが、この資料は日本の自殺対策に大きな影響を与えたものです。

そこで今回は、『自殺実態白書2008』とはどんな資料なのか、自殺対策とどのような関係があるのかを解説していきます。

『自殺実態白書2008』とは?

『自殺実態白書2008』とは、自殺に追い込まれる人を1人でも減らすことを目的に、自殺の「地域特性」や「危機経路 (自殺に至るまでのプロセス)」など、日本初の自殺の実態に関する報告書です。

『自殺実態白書2008』を作った団体

2008年7月4日、NPO法人ライフリンクが中心となる民間有志のプロジェクトチームが発表し、政府に提出しました。また、初めて自殺の実態を明らかにした調査報告書なので、大きな反響を呼び、様々なメディアで繰り返し取り上げられました。

『自殺実態白書2008』が公表された背景

この報告書ができた背景には、プロジェクトが始まる当時、自殺の実態をよく把握できていなかったことが挙げられます。2006年に「自殺対策基本法」ができ、官民が連携して社会全体で自殺対策に取り組む枠組みができました。

しかし、自殺の実態を把握できていなかったことから、具体的にどのような対策をとればいいのかも分からない状態に陥っていました。

そこで、各地域でうまく進められていなかった自殺対策を、より実効性を高く推進できるようにまとめられたのが『自殺実態白書2008』です。

『自殺実態白書2008』の構成

『自殺実態白書2008』の構成は以下のようになっています。

はじめに
「自殺実態解析プロジェクトチーム」の概要

第一章:自殺の危機経路
「自殺実態 1000 人調査」とは
「自殺実態 1000 人調査」から見えてきた8つのこと
「自殺の危機経路」に関する考察
自殺で亡くなった人たちの軌跡

第二章:自殺の地域特性
「年代×性×職業×原因・動機」の組み合わせ上位50
全国、都道府県別、市区町村別の結果

第三章:自殺の社会的要因
98年3月の自殺者急増
10年連続「年間自殺者3万人」
国際比較で見る日本の特徴
自殺による経済的損失

第四章:自死遺族の実情
自死遺族数の推計
自死遺族の実状

所感 ~おわりに代えて~

このように自殺の危機経路と、警察署単位での自殺データ (年代、性別、職業、原因、動機別の自殺者数を掛け合わせたもの) を集計することで、全国の市区町村単位で「自殺の実態」を明らかにすることができました。

これまで自殺対策といえば「周知啓発」以外の対策が取りづらかったのですが、地域特性が明らかになったことで、ハイリスク者にターゲットを絞った実践的な対策も取れるようになったのです。

さらに自殺対策だけではなく、自死遺族の実情についても、推計や課題などを細かく分析して自死遺族支援に必要な根拠を明確にすることができました。

『自殺実態白書2008』が提言した2つの事実

『自殺実態白書2008』では、文字通り自殺の実態が丁寧な調査結果をもとにまとめられています。

その中でも、「第一章:自殺の危機経路」と「第二章:自殺の地域特性」について重要な事実を提言しています。

自殺の危機経路

まずは「自殺の危機経路」から見ていきましょう。「自殺実態1000人調査」をもとに、遺族の方たちと協力しながら自殺で亡くなられた方305人分の実態分析を行ったところ、大きく8つのことが見えてきました。

自殺の危機経路について明らかにした8つのこと

① 自殺の背景には様々な「危機要因」が潜んでいる (計68項目) 

② 自殺時に抱えていた「危機要因」数は一人あたり平均4つ 

③ 「危機要因」全体のおよそ7割が上位10要因に集中 

④ 自殺の10大要因が連鎖しながら「自殺の危機経路」を形成 

⑤ 危機連鎖度が最も高いのが「うつ病→自殺」の経路 

⑥ 10大要因の中で自殺の「危機複合度」が最も高いのも「うつ病」 

⑦ 「危機の進行度」には3つの段階がある ~危機複合度を基準にして~ 

⑧ 危機要因それぞれに「個別の危険性」がある 

※危機複合度とは、それぞれの危機要因が含有している危機要因の数のこと

「1000人実態調査」から見えてきた自殺の危機経路 『自殺実態白書2008』 pp. 12 より引用
(出所:「1000人実態調査」から見えてきた自殺の危機経路『自殺実態白書2008』 pp. 12 )

こちらの図を見ると、自殺の要因が複数にわたっていたり、それらが互いに連鎖したりすることで複雑になっていることが分かりまxす。そして「危機要因」のうち、集中していた要因は図1の白丸で示されている10個でした。

自殺の危機要因

うつ病

家族の不和

生活苦

負債

失業

事業不振

過労

身体疾患

職場の人間関係

職場の変化

さらに危機連鎖度が最も高いのが「うつ病→自殺」の経路でした。

また、危機の進行度は3段階に分かれており、まず「自殺のきっかけとなる最初の危機要因が発生した段階」、次に「最初の危機要因から問題が連鎖を起こし始めた段階」、最後に「危機要因の連鎖が複合的に起こり事態が深刻化した段階」となっています。

それ以外にも、自殺で亡くなった7割以上の人が亡くなる前に医療機関などに相談に行っていたことなどが初めて明らかになりました (自殺で亡くなった人たちの中で相談機関に行っていた人は72%、自殺で亡くなるまでのひと月以内に行っていた人は 62%)。

自殺の地域特性

次に「自殺の地域特性」についてです。

当時「年代 × 性 × 職業 × 原因・動機」の組み合わせで1位となったのが「60代以上×男性×無職者×病苦等」、次いで2位が「60代以上×女性×無職者×病苦等」でした。

また、職業別自殺者数に目を向けると、1位の「無職者」が圧倒的に多く、2位の「被雇用者」の2倍以上となっています。そして、自殺の原因・動機 (大分類) は、「経済・生活問題」「病苦等」が近い数で1位、2位となっていました。

このように、「危機経路」「地域特性」という2つの解析結果を重ね合わせることで、これまで漠然としか把握できていなかった日本の自殺の実態がはじめて鮮明に見えてくるようになったのです。

『自殺実態白書2008』をどう現在に活かすのか

では、『自殺実態白書2008』をもとにどのような動きをとるのがいいのでしょうか。

ここでは、「自殺の予防」と「自死遺族の支援」の観点でまとめていきます。

自殺の予防

まずは「自殺予防」についてです。「自殺対策基本法」が成立してからも自殺対策がしばらく足踏みしていたように、その対策が再び停滞しないようにするためには「自殺の実態をどう解明して、その結果をどう対策につなげていくか」という仕組みを早急に整える必要があります。

自死遺族の支援

次に「自死遺族支援」についてです。2008年当時、現存する自死遺族だけでも300万人がいました。

自死遺族はその悲しみはもちろん、直接的な非難や誹謗中傷、さらには自殺が与える負のイメージから無意識的に周囲から偏見の目を向けられてしまうという現状があります。

そうした中で、4人に1人の遺族が「死にたい」と答えるほどに、生活に憤りや生き辛さを抱えてしまっています。

また、遺族の回復のためには、遺族のつどいだけはなく、生活を立て直すことも必要不可欠です。遺族は心理的な問題に加えて死後の手続きや経済面などもその負担となっているため、心理的側面のみに偏らない総合的な遺族支援の構築が今後の課題です。

そして、『自殺実態白書2008』第四章の考察では、自殺予防と自死遺族の関係についてこのように触れられています。

自殺予防とは自殺を防ぐと同時に遺族を苦しめることになる可能性もあることに触れておきたい。自殺予防が注目されるほどに、助けられなかった自分を再認識し、行き場のない思いが巡ることもある。その意味で、自殺予防と遺族支援は一体となって進むべき課題であることを忘れないようにしなければならない。

『自殺実態白書2008』

このように、『自殺実態白書2008』で新たに把握できた実情をもとに「自殺予防」と「自死遺族支援」の両軸で対策を講じていく必要があります。

おわりに

今回は、日本初の自殺の実態に関する報告書「自殺実態白書2008」について説明してきましたがいかがでしたでしょうか。この記事が少しでもみなさまの理解の一助となれば幸いです。

自殺実態白書2008を読んでいて印象的だった文章があります。それは、自殺実態解析プロジェクトチームの清水氏の言葉でした。

「日々『とりかえしのつかないこと』が起こり続けているのだという現実が、自殺問題のすべての前提としてあるわけだ」

『自殺実態白書2008』

どうしても「自殺者数」という風に数に注目してしまいますが、そこには紛れもなく「ひとりの尊い人生が終わってしまった」という事実があります。だからこそ、ひとりひとりの声に耳を傾け、実情を報告した自殺実態白書2008は非常に意義深いものだと感じました。

最後になりますが、もし今、生きているのが辛いと感じている方は、どうか1人で抱え込まずに周りの人を頼ってみてください。家族や友人ではない「誰か」に話を聞いてもらいたいと思ったときは無料で相談できる窓口もあります。

それでは、皆さまが今日という日を健やかに過ごせますように。

参考文献