こんにちは!やすまさです。
臨床心理学やメンタルヘルスを学んでいることもあって、友達からメンタル不調の相談を受けることがよくあります。その中でも、意外と多いのが「彼女がうつ病っぽい」「友達が突然連絡つかなくなった」という相談です。
自分自身のメンタルケアではなく、「身近な人のメンタル不調に対してどんなサポートができるか?」という疑問について産業医の堤多可弘(つつみ・たかひろ)先生に伺いました!
友人がメンタル不調っぽいなというとき、どう声をかけるか結構悩んでしまうんですよね。
堤先生、ぜひ教えてください!
はい!
精神科医・産業医の経験をもとに解説していきます。
具体的なケースとあわせて、学んでいきましょう。
VISION PARTNERメンタルクリニック四谷 副院長/精神科医・産業医
弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学精神科で助教、非常勤講師を歴任。
現在はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長とスタートアップ企業の取締役を務めるとともに、首都圏及び青森県の企業や行政機関の産業医を10か所以上担当。
ブログや著作、研修などを通じて、メンタルヘルスや健康経営、産業保健の情報発信も行っている。
共著に「企業はメンタルヘルスとどう向き合うか―経営戦略としての産業医 」(祥伝社新書)がある。
身近な人がメンタル不調気味。あなたはどう声をかける?
- 身近な人に元気がなく、いつもと様子が違う。
- もしかしたらうつ病ではないだろうか?
- 心配で受診を勧めてみるも本人はなかなか病院に行ってくれない。
- 自分としては心配だが、どうしていいかわからない。
うつ病が広く知れ渡り、家庭や職場でこういった経験をしたり、耳にしたりされた方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は「身近な人がうつ病のように見えるが病院に行ってくれない時、どう声をかけ対応していくのがよいか」について精神科医が解説してきます。
まずはこんなケースを一緒に見てみましょう。
事例検討:「メンタルクリニックなんて、薬漬けにされるだけ」
35歳のあなたは同じ年齢のパートナー花子さんと同居しています。
花子さんは商社に勤めています。商社はコロナ禍で業績が低迷しており、残業が増える一方でボーナスはカットされ、家計は苦しい状態です。さらに花子さんの会社では大幅な組織改編が半年前にありました。
花子さんの業務内容も大きく変わり、毎日遅くまで残業し、日に日に疲れがたまっているようでした。
花子さんは2ヵ月前からさらに元気がなく、休日も趣味だったアウトドアなどはせずに外出せずにぼんやりしていることが増えました。
夜は眠れないのか、何度も寝返りをうっています。
疲れた。
もういやだ。
食事をとらない代わりに酒量が明らかに増え、「疲れた」「もういやだ」と口にするようになっていました。
家事や買い物を頼んでもうっかり忘れることが増え、話をしてもすぐ忘れたり理解できないことが増えていました。
心配したあなたは「メンタルクリニックに行った方がいいのでは」と花子さんに話しました。
しかし花子さんは「今メンタルクリニックなんか言ったら、薬漬けにされてますます具合が悪くなるに決まっている。そもそも私はうつ病なんかじゃない」と行きたがりません。
メンタルクリニックとか行った方がいいんじゃない?
メンタルクリニックなんか行ったら、薬漬けにされてるだけだよ。
そもそも、私はうつ病なんかじゃないし。
さて、このあとあなたならどう回答するでしょうか?
む〜。ちょっと言葉に詰まってしまいそうですね。
精神科やメンタルクリニックに行きたくない気持ちもわかるけど、とはいえ今のままだと取り返しがつかなくなりそうです。
事例検討の回答例:「もしよかったら、話を聴かせて」
あくまでひとつの参考例ですが、事例検討の回答例をご紹介します。
この数カ月、元気がなくてつらそうに見えるよ。
もしよかったら、話を聴かせてくれると嬉しいな。
花子さんはしばらく沈黙した後、会社が辛いこと、家計が心配なこと、元気もなく会社に行くことさえ辛いことをゆっくりと語り始めました。
会社全体がコロナで業績傾いてて大変だったんだけど、先週上司が辞めるって話も聞いて。
ただでさえ残業してもしても仕事終わらないのに、来月からどうしようって。
それに、ボーナスもカットされちゃったからお金の問題もあるし。
色々考えてたら、会社に行くのもすごいしんどくなっちゃって・・・。
うなずきながらじっくりと花子さんの話に耳を傾けました。
一緒に解決していきたいから、もしよかったら専門家に相談してみない?
うーん・・・。
僕も同行するし、安心できそうなところを探すから。
わかった。
後日、メンタルクリニック受診しました。
丁寧な診察と治療を受け、花子さんは数ヵ月後には元通りの元気を取り戻していきました。
花子さん、無事受診して元気になって良かったですね。
でも、本人が「大丈夫」って言ったら、そっとしておいた方がいいのかなと思っちゃったりもしそうで、なかなか難しそうです。
そうですね。
だからこそ「専門家に相談すべき基準」と「声のかけ方のコツ」を知っておくことが大切です!
うつ病を疑う4つのチェックポイント
どんな時にうつ病などのメンタル不調を疑い、メンタルクリニックの受診を考えた方がいいかを知っておくことは大切です。
うつ病や精神疾患の診断方法は、専門家でも難しいものです。
ですが、一般の方でも「メンタルの不調により専門家の手を借りた方がいいのか?」という視点を持つことはできます。
うつ病も含めたメンタル不調の症状の現れ方はさまざまですが、誰が見ても明らかなポイントとして以下の4つを覚えておきましょう。
- 睡眠の悪化
- 食欲の変化
- 興味・楽しみの低下
- 思考力・集中力の低下
上記の4項目のうち、どれか一つでも2週間以上変化が持続する場合はうつ病などのメンタル不調を疑います。
「くう、ねる、あそぶ、考える」が2週間と覚えてください。
いずれも比較的変化に気づきやすく、メンタル不調の初期から現れやすい症状です。
【1】睡眠の悪化
- 寝つきが悪い
- 途中で何度も目覚める
- 早期覚醒
- ひどい寝汗
- いくら寝ても眠い
【2】食欲の変化
- 食欲の増減
- 食べるものの好みの変化
- 飲酒量の増加
【3】興味・楽しみの低下
- 趣味をしなくなる
- 趣味に関連することをしなくなる
- 何事も楽しめなくなる
【4】思考力・集中力の低下
- 仕事が頭から離れない
- 発想・思考がまとまらない
- ミスが増える
例えば、ケースに出てきた花子さんも、睡眠が悪化し、食欲が変化、休日も外出しなくなり、うっかり忘れ=ミスが増えていました。
普段何気なくできている自炊、入浴、片付けなどができなくなっている時や身だしなみが乱れているときも要注意です。
もちろん、元気がない印象を受けるとか、ネガティブ発言が増えるなども重要な変化です。
4つのチェックポイントに変化がないか、気をつけてみてください。
「くう、ねる、あそぶ、考える」が2週間。
これを覚えておきましょう!
語呂合わせみたいですね。
暗記します!
声をかけるときは「傾聴」「アイ・メッセ―ジ」を心がける
うつ病かもしれない4つのチェックポイントに変化があり、専門家に相談したい場合は、受診を勧める必要があります。
とはいえ彼氏・彼女や友達、家族など、身近な人ほど伝えにくいこともあるかと思います。
声をかけるときのポイントは以下の3つです。
- 決めつけず
- 話をよく聞き
- 「アイ・メッセージ」で伝える
【1】相手のことを決めつけない
まずは、決めつけず話をよく聞くことがとても大切です。
心の調子が悪い時は、どこかに認めたくない気持ちがあるのが一般的です。
そんな時に頭ごなしに「うつ病だから病院に行った方がいい」などと決めつけられると、どうしても抵抗感が出てしまいます。
「最近の様子を見ていて私は心配している」「話を聞かせてほしい」と伝え話をよく聴きましょう。
沈黙を怖がらず、ゆっくりと待つことがポイントです。
ただでさえ不調の時は頭の回転が鈍くなってしまっていますし、矢継ぎ早に質問すると責められているような気持ちになり心を閉ざしてしまうかもしれません。
「今の気持ち」や「困っていること」を語ってくれるまで、落ち着いて待ちましょう。
【2】話をよく聴く
しっかりと話を聴くことで、相手は「自分の気持ちは話していいんだ」と感じることができ、辛さを吐露することができます。解決に向かうための意見にも、耳を傾けてくれるようになります。
どうしても話してもらえない時は「いつでも相談してほしい」と伝えて一旦間を置くのも作戦の一つです。
【3】「アイ・メッセージ」で伝える
しっかりと話を聞いた後は自分の気持ち・考えを伝えましょう。
「心配をしているから受診をしてほしい 」「専門家に相談してほしい」などです。
この時ポイントになるが「アイ・メッセージ」です。
アイ・メッセージとは、主語を「私は」とした伝え方のこと。
相手にとって受け取りやすく、辛い気持ちの時でも届きやすいといわれている伝え方です。
例えば、「私にはあなたがつらそうにみえるから心配してる」とか「私は、専門家に相談するのがいいと思う」などの伝え方がアイ・メッセージです。
反対に「あなたは辛いはずだ」とか「(あなたは)専門家に行ったほうがいい」などはユー・メッセージといわれるもので、突き放されたような、責められたような印象を与えてしまいます。
伝えるときは、「アイ・メッセージ」を心がけましょう。
どうしても受診してくれない時は「小さな約束」をする
ここまで話しても受診をしてもらえない時は「小さな約束」をしていくのも作戦のひとつです。
例えば「一週間経っても良くなっていなかったら一緒に相談に行こう」 などと約束をするのです。
押し付けるのではなく、相手とよく話したうえで納得してもらうようにしましょう。
明確に「死なない約束」をしてもらうことも状況によってはの選択肢の一つです。
我々精神科医も、診察の中で「死なないと約束してほしい」と話すことがあります。
死にたい気持ちが少しでありそうなときは遠慮なく約束してもらいましょう。
ひとりで抱え込まず、周囲や専門家に相談しよう
どうしても本人が受診を嫌がる場合は、自分だけでも専門家に相談してみたいと提案してみましょう。
自分が何とかしなければとひとりで抱え込むのはNG。一人で抱え込まず、周囲や専門家に相談しましょう。
それさえも難しければ、こっそりと専門家に相談しに行き、「どうやって本人と専門家をつなぐか」というところから助言を求めるのもありです。
医療機関では「家族相談」として本人不在でも相談を受け入れてくれる場合があります。
また厚生労働省の「こころの耳」ではいろいろな相談事例や情報が掲載されています。メールや SNS や電話などの相談を受けてくれていて、医療機関の情報なども掲載されています。
家族ではなく会社の仲間でであれば、産業医や保健師など会社内で使える相談先を使うのも良いでしょう。
うつ病などのメンタル不調に専門家ではない人が、たった一人で対応するのはとても難しいです。
少しでも周りの力を借りることで、うまくいく確率がグッと上がります。
身近な人がうつ病などメンタル不調になってしまった時は本当に心配ですし、どうしていいかわからないかもしれません。
そんな時でも慌てずにまずは心を落ち着かせ、この記事を思い出してください。
堤先生、ありがとうございました!
堤先生は、尾林先生、木下先生との共著でこちらの書籍を出版されています。
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