厚生労働省の2021年度雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率「13.97%」でした。
増加傾向にはあるものの「2025年までに男性の育休取得率30%」の政府目標には届いていません。
男性育休の取得問題について、その背景要因と解決策の一案を考えていきます。
そもそも育児休業給付金とは?
育休と言った時に、広義の意味では育児のために休むこと全般を指しますが、一般的には「雇用保険の育児休業給付金を受給して、休むこと」を指します。休んでいる間は、雇用保険からお金をもらえるので、働いてなくても、手取りの7〜8割程度の収入を確保できます。
育児休業給付金の支給要件
育児休業給付金の支給要件は以下の3点です。つまり、「雇用保険の被保険者」でなければ支給されません。
育児休業給付金は、雇用保険の被保険者の方が、原則1歳未満の子を養育するために育児休業を取得して、以下の要件を満たした場合に支給されます。
Q7 育児休業給付金の支給要件を教えてください。
①1歳未満の子を養育するために、育児休業を取得した被保険者であること(2回まで分割取得可)。
②育児休業を開始した日前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あること。
③1支給単位期間中の就業日数が10日以下または就業した時間数が80時間以下であること。
男性の育休取得が増えない背景
なぜ男性の育休取得が増えないのか。それは3つの構造的背景があると思う。
- 日本の経営者には男性が圧倒的に多いこと
- 経営者は雇用保険に入ることができず育児休業給付を受給することができないこと
- 育休が取れない男性経営陣の文化が、現場の管理職にも無意識に伝染してしまうこと
「育休を取らないでほしい」と心底思っている経営者はそこまでいないと思います。
なぜなら会社にとって金銭的な負担は発生しないからです。育児休業給付金は雇用保険から支払われます。会社がお金を支払っているわけではありません。社員や家族の幸せを大なり小なり願っているでしょうし。
でも、「育児で休んで、仕事から解放されて、お金の心配はあまりない」という体験をしたことがないので、わからないという人はかなり多いと思います。
自分はどう頑張っても育児休業給付金を1円も受給することはできない。
そのため、目的が育児だろうと休んだら無給で、会社はいつ傾くかもわからない。
それ故に育児に時間も使いにくい構造の中で何とか仕事と家庭をやりくりしている。
このような仕事と家庭を何とか必死にやりくりせざるを得ない状況に追い込まれているので、経営者が育休を取る男性の心理がわからないのは当然のことのように思えます。
もちろん会社にとっては「育休中に貴重な人材が半年〜1年間抜けてしまうので、別の人材を探さないといけない」という負担が発生します。
とはいえそれは育休取得時に限らず、常に考えるべきお話です。
男性育休を増やすための解決策:役員の雇用保険任意加入制度
男性の育児休暇を増やすための解決策の1つは、「経営者やフリーランスでも雇用保険に任意加入できるようにすること」だと思います。そうすれば、取締役に就任している役員や創業社長も育児休業給付を受給できるようになります。つまり、経営者や取締役も、労働者の立場である男性と同様に、「育休を取るか、否か」という悩みを持てるようになるということです。
「育休を選べるけど選んでいない人」と、「育休を取る選択肢がなくて育休を取っていない人」では同じ育休を取ってない立場であっても意味合いが大きく異なります。
育休を検討している部下に歩み寄り一緒に考えられるようにもなるでしょう。
雇用保険任意加入のメリット
起業した創業者や、役員、フリーランス(個人事業主)も雇用保険に任意加入できるようにすると、いくつかメリットがあります。
- 起業家や役員、フリーランス(個人事業主)も子育てをしやすくなり出生率が増えるかも。
- 男性の育休取得が促進されて出生率が増えるかも。
という2つが少なくとも考えられるかなと思います。
経営者やフリーランス(個人事業主)が雇用保険に加入できない背景
現状の雇用保険法では、経営者やフリーランス(個人事業主)は雇用保険に加入することができません。
その理由はおそらく以下の2つです。
- 自分で自分の首を切れるため
- 自分で自分の報酬を決められるため
つまり、雇用の継続や報酬について、自分で決められてしまうから、雇用保険に入るのはふさわしくないということだと思います。(諸説あるとは思いますが)、雇用保険に加入しているからと、自分の報酬を高く設定して、わざと解任されて、仕事を失ったという建て付けにし、雇用保険の基本手当(失業手当)などを受給しようとする可能性があるということが懸念なのでしょう。
でも、よくよく考えてみれば「サラリーマン」と「経営者・フリーランス」は実態として置かれている状況に大差はありません。
株式会社の経営者の場合、経営者だって株主から選ばれた身であり、株主からいつ解任されるかわかりません。報酬も株主が決めていて、完全な自決権があるかというとそうでもありません。
個人事業主の場合、顧客次第で決まります。顧客から解約されることもあるので、いつ無収入になるかわかりません。
サラリーマンだって、不正に雇用保険を受給しようとする人は五万といます。
雇用保険の任意加入制度を作るための論点
- 会社役員の場合、報酬をどのように算定するか?(おそらく全国の労働者の平均賃金を採用するのが妥当になりそうです)
- 任意加入するための条件は何か?
- 任意加入した際の雇用保険料はどのように算定するか?(通常の労働者と同様の保険料率で、本人と法人とそれぞれから保険料を取る形が良いかと思います)
- 受給できる保険事故と保険金に制限をかけるべきものがないか?