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自殺予防の研究手法「心理学的剖検」とは?【自殺予防の基礎知識】

「心理学的剖検」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。自殺の実態を明らかにするために、研究手法の1つとして活用されているものです。この記事では、心理学的冒険の基礎と研究事例をご紹介します。

心理学的剖検とは何か?

心理学的剖検とは、自殺をした人と生前に関係があった周囲の方、たとえば、家族や友人、職場の同僚やその他の知人、精神科などに通院していた場合の主治医、学生であれば担当教員などから、自殺者の生前の情報をさかのぼって聞き取るデータ収集方法の総称です。

心理学的剖検の起源

心理学的剖検は、アメリカで自殺研究をしている心理学者エドウィン・シュナイドマン氏らの調査的なアプローチが元になっています。エドウィン・シュナイドマン氏らが不審死の死因を明らかにすることを目的に開発した方法です。

事故死であれば、事故を検証して原因を解明でき、殺人などの事件であれば事件の解明によって、死の詳細を明らかにすることは可能です。

しかし、自殺の場合、死を選んだ本人は亡くなっているので、具体的に死に至った経緯や決断に至った状況を知ることができません。そこで、関係者からの聞き取りを通じて、自殺に至った理由や状況を明らかにしようという調査法です。

心理学的剖検の語源

心理学的剖検は英語で「psychological autopsy study」と言います。「PAS」と略されることもあります。

この言葉は、エドウイン・シュナイドマン氏が作った造語です。

「剖検」とは文字通り「解剖して」「検査する」こと。

通常は司法解剖などでは人体にメスを入れて内臓の状態などを徹底的に検査するのですが、それを「心理学的」に実施するので、「心理学的剖検」という名前がつけられています。

心理学的剖検の自殺予防への応用

心理学的剖検は当初、亡くなった自殺者の死に至った原因を明らかにするためのデータ収集法として開発されました。そして心理学的剖検によって得られた知見は、自殺予防研究へと応用されるようになっています。

自殺者の関係者からさまざまな事情や状態を聞き取ってデータを収集して分析すると以下のような傾向がわかります。

  • 「自殺前にこのような行動を取る傾向がある。」
  • 「このような発言をする傾向がある。」
  • 「このような表情をしていた。」

自殺者の生前の行動の傾向を丁寧に分析することで、自殺してしまうリスクが高い人を事前に把握して支援することが可能になります。

精神科医や心理カウンセラーなどが、うつ病などメンタルヘルスに問題を抱えている方をサポートしていく中で、快方に向かっていると思っていた患者さんがある日突然自殺してしまう事例は少なくありません。心理学的剖検を通じて自殺した人の関係者に、自殺前の過去を思い出してもらうことは辛いことではありますが、データを増やしていくことで、将来の自殺者の予防に役立ちます。

心理学的剖検の発展

心理学的剖検の手法を用いて自殺の背景要因を明らかにする研究は世界的に広まっており、1950年代後半からは対照群をおかない記述的な研究がスタートしました。

1990年代以降は症例対照

研究が行われるようになり、自殺未遂に終わったなどの生存事例や他の死因による死亡事例を対照群として、自殺事例と同様の調査を行って、結果を比較する方法も行われるようになっています。

心理学的剖検による研究事例

心理学的剖検を活用した研究事例として、国立精神・神経センター精神保健研究所の研究チームが行った「心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究」についてご紹介します。この研究結果を知ることで、職場内における自殺傾向のある人を察知できることや自殺予防のための啓蒙活動やサポートなどを行えるようになるかもしれません。

この研究では、心理学的剖検の手法により、自殺予防と遺族支援のための基礎調査が実施されました。

研究の目的

この研究の目的は、日本において将来にわたって広範な心理学的剖検の実施可能性の可否や心理学的剖検データベース・システムのあり方について検討することと、公的機関における地域保健活動において、接触可能だった自殺事例の臨床類型を明確にし、自殺予防の介入ポイントや遺族支援のあり方を紐解くことです。

研究方法

平成19年12月から平成21年12月末日にかけ、都道府県および政令指定市を中心に、資格要件を満たす2名1組の調査員が自殺者の遺族1名に対して面接を実施し、計76名の調査を行いました。

さらに自殺既遂事例と地域・性別・年齢が一致した対照群の調査も実施し、自殺既遂事例の特徴を数量的に分析するとともに、精神科外来に来院した遺族のメンタルヘルスニーズに関する調査も実施しています。

調査結果

自殺事例群の分析から自殺予防のための介入のポイントは、ライフステージ別に分けられて、考察されています。
青少年の場合、精神疾患の症状が見られた際の早期介入が必要であり、家族による支援と精神科治療薬の適正使用が大切だとされました。

中高年の場合、アルコール依存症に関する社会の認知を高めること、断酒会といった自助グループによるサポート、一般医や精神科医のアルコール問題に対する診断と治療能力の向上が必要との判断に至りました。
高齢者の場合、精神科受診の促進と、かかりつけ医のうつに対する診断や治療能力を向上させることが大切と判断されています。

また、症例対照研究の結果を通じて、幼少期や学生時代の虐待や暴力、家族や家族外の社会的交流の少なさをはじめ、大人になってからのリスクの高い借金、職場における配置転換や異動に関する悩み、それに伴う日常生活の支障を伴う身体的問題や睡眠障害、眠るための飲酒などが影響していることが判明しました。

この研究から分かることは、企業においては従業員に不眠やアルコールに頼る傾向がないかを、ストレスチェックやカウンセラーによる面談などを通じてリサーチすることやアルコール依存とメンタルヘルスの関係などをわかりやすく紐解く読み物などを通じて啓蒙やサポートを図っていくことが望まれます。

https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1405204940
https://www.ncnp.go.jp/nimh/keikakuold/old/archive/report/pdf/vision_21-10.pdf