こんにちは。パパゲーノのやすまさです。
自殺対策の電話相談窓口「いのちの電話」について、Podcast番組「パパゲーノの秘密基地」にてお話させていただきました。
「いのちの電話」とは何か?
いのちの電話とは、死にたい気持ちを抱えた人にとって「最後の砦」として使われる自殺対策の電話相談窓口。約6,000名のボランティア相談員が年間60万件以上の電話相談に応じています。
財源は寄付金が8割、助成金が2割ほどとなっています。
いのちの電話の運営体制や実態については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「いのちの電話」とは?匿名電話相談の実態や運営体制、相談員になる方法を解説厚生労働省の自殺相談窓口のページにも掲載されており、日本でも最も伝統的な相談窓口の1つです。
「いのちの電話」はなぜ繋がらないのか?
「いのちの電話」は、電話が繋がらないという問題が昔から指摘されています。
推定年間540万人が電話が繋がらず孤独を抱えている
2001年5月の調査結果では、「140回に1回つながる」という結果でした。
そこから改善はされているものの、今でも「10回に1回〜3回」くらいしか繋がりません。応答率は10〜30%ほどということです。
年間60万件以上の電話相談のうち、「約10%」は自殺企図を伴う相談なので、6万人ほどが重篤な死にたい気持ちをいのちの電話によって救われている一方で、「応答率10%」と仮定すると「年間600万人が電話していて540万人は繋がらずに孤独を抱えたまま放置されている」ということでもあります。
あくまで仮定の数字ではあるものの、いのちの電話が繋がらない問題は「何とか解決すべき問題」と感じる方は僕だけではないかと思います。
いのちの電話が、電話に出ないことで「いのちの選別」をしているパラドックス(矛盾)は昔から批判されています。
いのちの電話の電話が繋がらない問題の背景にある8つの要因
いのちの電話の電話がなかなか繋がらない問題の要因として以下の8つの要因があります。
【1】恒常的なリソース不足
最大の課題とされるのが、恒常的なリソース不足です。特に「ボランティア相談員の不足」と「財源の不足」です。
相談の件数はたくさんきているにもかかわらず、ボランティアの数が足りず、お金もないため、残念ながら全て対応できていないというのが現状です。
【2】電話という「同期通信」を使っている
電話は「同期通信」といって、「電話する側」と「電話される側」が同時に時間を拘束されてつながっていないと、コミュニケーションが取れない手段です。そのため、相談窓口を運営する上でボランティア相談員の確保の難易度がより高くなります。
反対に、チャット相談のような窓口の場合、「非同期通信」のため、「相談員がいなくても相談を受けておくことができる」「余裕のある人が多く相談に応じることができる」など、「相談する側」と「相談される側」の双方にとって時間的な拘束がされにくくなります。
【3】コールセンターで運用していて「固定費」が高い
いのちの電話は、コールセンターが日本全国に50ヶ所ほどあり、ボランティア相談員がコールセンターに出勤して電話相談に応じています。そのため、コールセンターの設備投資が必要で、毎月の家賃や電話の回線費用の固定費がかかります。また、ボランティア相談員の交通費などの経費もかかります。
寄付と助成金を財源としており、資金不足にもかかわらず、固定費も増えるようなオペレーション体制なのが1つの課題です。また、規模を拡大しようとしても設備投資と固定費を伴うため広げにくいです。
【4】ボランティア相談員になるためにお金と時間が多くかかる
いのちの電話は、約6,000名のボランティア相談員によって運営されています。応答率10%ということは、単純計算で10倍の数の6万人相談員が日本全国にいれば全ての相談に応じることができるということになります。
しかしながら、ボランティア相談員を増やすことができていないのは「ボランティア相談員になるハードルが非常に高い」ためです。
ボランティア相談員になるには、1年ほどの研修を3万円ほど自費で負担して受講する必要があり、相談員になってからも決められた時間にコールセンターに行って時間を確保する必要があります。
そのため、新規でボランティアになる人が増えにくい仕組みになっています。
【5】ボランティア相談員の高齢化
無償ボランティアによる運営であるため、現役世代の方はどうしても相談員になりにくいです。そのため、ボランティア相談員が高齢化している現状があります。
ボランティア相談員の高齢化による問題としては、新規で相談員になる人よりも辞める人の方が増えてしまう可能性があることと、若者が使いにくい窓口になる可能性があることがあります。組織文化としても、IT技術の活用が進みにくくもなってしまうでしょう。
一方で、高齢化が進む中で、スマホは使えないが電話ならできる高齢者の方もたくさんいます。いのちの電話が「高齢者のための、高齢者による相談窓口」として果たすべき役割は今後も大きいかと思います。
【6】リピーターが多い
いのちの電話には、同じ人が何度も何度も繰り返し電話をしてくることが多いと言われています。そのため、何度も電話してくる電話番号については繋がりにくくするような対応をしています。
【7】イタズラ電話が多い
いのちの電話には、「イタズラ電話」が多いことも報告されています。相談員に対して、イタズラ電話がきた際の対応フローとマニュアルを用意して研修し、すぐに終話できるような体制を整えたり、イタズラ電話をしてきた電話番号を登録して電話が繋がらないようにする対応をしています。
【8】1回の電話の時間が非常に長い
いのちの電話の相談は、人には相談しにくい深い悩みを相談するケースが多いです。そのため、1回の電話が数分で終わることは珍しく、1時間ほどに及ぶことも少なくありません。
そのため、1日に対応できる電話の数も少なくなってしまします。
IT技術を活用したSNS相談窓口も増えているが課題は残っている
いのちの電話の問題点の一部を改善し、IT技術を活用したチャット相談による非同期通信のオンライン相談窓口も増えてきています。
例えば、NPO法人あなたのいばしょが提供する匿名チャット相談は、基本的な理念やボランティアによる運営という点はいのちの電話と類似していますが、研修も相談も自宅からオンラインで受講できるためボランティア相談員になるハードルが下がっています。海外にも相談員がいることで24時間相談に対応しやすくしたり、チャット相談の内容によって緊急性が高いキーワードを含む相談は優先度を高めて対応するなど、IT技術を最大限工夫して活用されています。
とはいえ、自殺対策の相談窓口が、本当に必要なときに繋がらないという問題は依然として残ってはいます。
以前、死にたい気持ちを抱えた方から夜11時頃に相談を受けたときに、「いのちの電話」や「あなたのいばしょ」の相談窓口をご紹介したのですが、どちらも1時間以上繋がらなかったです。
IT技術を活用したSNS相談窓口も増えてきているものの、「自殺対策相談窓口が、本当に必要なときに繋がらない問題」はまだまだ残っているということです。
「ボランティアを増やす」「財源を増やす」という解決策
いのちの電話の「電話相談が繋がらない」という問題に対して、「ボランティアをどうやって増やすか」「寄付金や助成金をどうやって増やすか」という議論がよくされています。
短期的には非常に重要な論点である一方で、「ボランティアを増やす」「寄付や助成金を増やす」という解決策には限界があります。
中長期的にも、「ボランティアをどうやって増やすか」「寄付金や助成金をどうやって増やすか」だけを考えて、いのちの電話を運営していくことは、第二次世界大戦で日本軍が負けた理由を分析した『失敗の本質』で語られているような失敗を繰り返すのではないかと思います。
例えば、当時の日本軍は、暗闇でも戦闘機に砲撃を当てるために「目がいい人の目を鍛える」ことに注力していました。アメリカ軍は「砲撃が当たらなくても敵の近くで爆破するようなセンサーの開発」に注力していました。結果としてアメリカの方が中長期的には強い組織を作ることに成功したということになります。
今振り返ると、「目がいい人の目を鍛える」というのは馬鹿らしいことに思えるかもしれないですが、家中の当事者になるとどうしても目先の改善に目がいってしまいます。持続的に強い組織を作り価値を生むには、もう少し大局的に、「そもそもの根本の要因を解決するために技術革新ができないか」「異なるビジネスモデルを作れないか」「異なる指標を設定すべきではないか」を考えることが重要です。
Web3の力で「いのちの電話DAO」を作れないか?
いのちの電話について課題を整理できたので、Web3やDAOの力でこれらの課題を何とかできないかを考えていきます。今回は、Web3の既存サービスの事例を参考にアナロジー思考で「いのちの電話DAO」のあり方を考えていきます。
「あぁでもない」「こうでもない」と議論している様子はぜひPodcastで聴いていただけたらと思います。笑
【STEPNのアナロジー】Support to Earn(S2E)のインセンティブ設計
STEPNは歩くと稼げるゲームです。Move to Earn(M2E)と呼ばれます。
スニーカーのNFTを買って、歩いたり走ったりすることでゲーム内の通貨を獲得できます。その通貨はゲーム内で使用することもできますし、法定通貨に換金することもできます。
助けを必要としている人を支援するほど、トークンが付与される「Support to Earn(S2E)」のインセンティブ設計は参考にできそうです。
例えば、初期研修のeラーニング視聴を完了したら相談対応ができるようになり、相談に応じるとトークンが付与されていくというイメージです。トークンの保有量が、その相談員の信用の証明にもなり、投票権も大きくなっていきます。
投げ銭などの仕掛けで取引量を増やし、取引手数料を運営基金に貯めていくモデルを作り、運営基金にたまったお金を何にいくら投資するかは「トークン所有者による投票で意思決定していく」と、自立分散型の「いのちの電話」の運用ができるかもしれません。
STEPN IS A WEB 3 LIFESTYLE APP
WITH SOCIAL-FI AND GAME-FI ELEMENTS
PLAYERS CAN MAKE HANDSOME EARNINGS BY
WALKING, JOGGING, OR RUNNING OUTDOORS
(日本語訳:STEPNは、SOCIAL-FIとGAME-FIの要素を持つWeb3ライフスタイルアプリです。屋外でウォーキングやジョギング、ランニングをすることで、高収入を得ることができます。)
【Yay!のアナロジー】似た境遇同士で繋がるSNSの仕組み
Yay!は国内最大級のSNSコミュニティアプリ。同じ趣味のユーザー同士で繋がることができるサービスです。
ちょっと僕は怖くて使ったことがないのですが。笑
似たような境遇の人同士が繋がる仕組みは転用可能性が大いにありそうです。
Yay!は、登録ユーザー数500万人を突破した、国内最大級の無料で使えるSNSコミュニティアプリです。グループ通話機能・同じ趣味のユーザー同士で集えるサークル機能・1対1でつながれるチャット、個人通話機能など様々な機能があり、このアプリを開くだけで、オンラインで新たな居場所を作ることができます。
【UNCHAINのアナロジー】相互学習のエコシステムとプロジェクト参加の機会提供
UNCHAINはプロジェクト参加と相互学習のエコシステム。
実践的な開発スキルを身につけて、コミュニティに参加し、プロジェクトに参加しながら自分らしいキャリアを探索することができます。
一定の学習を完了するとコミュニティに参加できる仕組みや、コミュニティでの相互学習やプロジェクトに貢献するとトークンが付与される仕組みは転用できそうです。
UNCHAIN では、「GUILD」とよばれる、外部の企業、アーティストやクリエイターとの共同開発プロジェクトに参加する機会、「INCUBATE」とよばれる、web3プロダクトをコミュニティメンバー同士が互いに協力して開発できる機会を提供しています。これらの機会を活用し、一人でも多くの方に自分らしいキャリアを形成していただきたいと願っています。
いのちの電話DAO検討会のまとめ
今回は「いのちの電話DAOを作るとしたらどうなるか?」をテーマに、にゆるくアイデアを議論してみました。
- ボランティア相談員に対してどんなインセンティブ設計をするか?
- ボランティア相談員になるまでのオペレーションを全て自動化できないか?
- 相談したい人が後から「投げ銭」することで回る経済圏を作れないか?
- トークンにどんな価値を付与するか?
- 相談活動が広まること自体がコミュニティにとって何らかの付加価値を生む構造を作れないか?
などなど、勉強しながら考えていきたいと思います。
色んな方の知見が必要なテーマなので、少しでも興味ある方は一緒に語り合えると嬉しいです。