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仕事ができない部下のメンタル不調と向き合う7つの視点

チームをマネジメントしていると、部下のメンタル不調やモチベーション低下の問題に直面することは避けて通れない道でしょう。在宅勤務や急激な市場環境の変化に伴い仕事内容にも変化が生じてメンタル不調は起こりやすくなっているかと思います。

なかでも難しいのが、「仕事ができない人」のメンタルヘルス不調。

「あの人は、能力不足だったからパフォーマンス出せなくて体調不良になったよね。」

そう言って片付けて、思考停止したくなります。

自分自身がリーダーとして悩んだり、いろいろと人から相談を受けたりする中で、クロッキー帳に書き殴っていた7つの観点をまとめます。

「パフォーマンス不良」×「メンタル不調」の難しさ

パフォーマンス不良の要因は「本人の努力不足」「会社としてのマネジメントの機能不全」の2つに大別されます。そのため自己責任論だけで片付けることはできない問題です。

パフォーマンス不良が続くと、仕事をすることがしんどくなりメンタル不調になります。メンタル不調になると、よりパフォーマンスは悪くなっていきます。

「パフォーマンス不良→メンタル不調」という影響と、「メンタル不調→パフォーマンス不良」という双方の因果があるので、一度この負の循環に入ると抜け出すのが難しいです。

こうなると、本人の責任と、会社の責任の切り分けが難しく、上長としてもどう向き合って良いかがわからなくなります。その結果、マネジメントの機能不全を認めたくない気持ちと、メンタル不調というよくわからないものと向き合う面倒さも相まって、「あの人は、能力不足だったから仕方ないよね」「あの人は、うちの会社と合ってなかったから仕方ないよね」と思考停止に陥りがちなのかなと思います。

【視点1】内的要因と外的要因の切り分け

第一に、内的要因と外的要因の切り分けをしてみます。自己責任の部分と、マネジメントの責任の部分とを切り分けて、要因紙に書き出してみるとわかりやすいです。

内的要因の視点

・内的要因(会社としての要因)は何か?

【視点2】本人に聞いてみる

次に大切な視点が、本人が助けを必要としているのかということ。「自分だったら助けが必要か?」を考えて決めつけがちなので、本人に聞いてみるのは大切です。

縦(上長経由)だけでなく、横(同僚経由)からもヒアリングをしてみます。

当事者の視点

・本人が助けを必要としているのか?

【視点3】職業性ストレスモデル

3つ目はストレスモデルの視点です。職業性ストレスモデルを利用して、なぜ強いストレス反応が出ているのかを構造化していきます。

職業性ストレスモデルの視点

・努力-報酬不均衡モデル:本人の努力と報酬に均衡が取れているのか?
・仕事の要求度-コントロール度モデル:本人が要求されていることと、裁量度合いの均衡が取れているか?
・NIOSHの職業性ストレスモデル:仕事のストレス要因や周囲のサポートが適切か?個人資質やプライベートの問題がないか?

【視点4】カスタマーサクセスとして

4つ目がカスタマーサクセス(CS)の視点です。

新入社員や配置転換された社員も、商品を購入したお客さんと同じで期待と不安がある中で最初は暗中模索で仕事を進めていきます。社内で活躍するまでのオンボーディングプロセス(人事フロー)に課題がないかを考えます。

特にSaaS事業では、メンバーもいちユーザーになり得るので、入社したてのフレッシュな視点でプロダクトやオンボーディングプロセスの改善点に気づく貴重なきっかけになります。

カスタマーサクセスの視点

・新しく入ったメンバーを成功に導くにはどうしたらいいか?
・プロダクトやオンボーディングプロセスに改善の余地はないか?
・人事フロー(採用→配置→育成→評価→代謝)

【視点5】労務リスクのリスクヘッジとして

5つ目の視点は会社としての労務リスクです。「使用者としての有責性」と「負の影響の拡張性」の2つの視点で労務リスクのアセスメントをしていました。

使用者としての有責性は刑事(労基法違反がないかなど)と民事(安全配慮義務違反がないかなど)の両面から考えます。訴訟されたときに有責性がないことをどのように証明できるかをイメージします。

拡張性は、最悪のシナリオを描いて労務トラブルに発展したときに何が起こるかを想定します。

労務リスクの視点

・使用者としての有責性(予見可能性×回避可能性)
・負の影響の拡張性(パフォーマンス不良が顧客への提供価値にどの程度負の影響を与えるのか?)

【視点6】人的資本に投資する者として

6つ目の視点が事業家として。パフォーマンス不良だろうと、給与と組織維持に必要な経費を上回る粗利を稼いでいる人材ならば価値があるという考え方です。ドライですが、1番シンプルでわかりやすいと思います。

逆に生んでいないなら会社にとってはお荷物なので退職勧奨をしたり、配置転換を検討したりすることになります。

人的資本の視点

・給与を上回る利益をもたらすか?

【視点7】産業保健のプロとして

最後に、これは産業保健を生業にしている人特有の視点かもしれないですが、産業保健のプロとしてどう振る舞うかを考えるようにしていました。

産業保健の専門家としての視点

・適正配置ができているか?(個人資質と仕事/職場のマッチング)
・事例性(生活や仕事に具体的にどんな問題が生じているのか?)
・疾病性
・手続的理性

「能力不足だな」と思考停止するのはもったいない

問題の要因を個人に帰結させずに、会社としての内部要因を出し切って組織として学習することが大切かなと思い、「パフォーマンス不良×メンタル不調」という難しい問題と向き合う7つの視点を紹介してきました。何が正解かわからない中で、観点を1つでも多く持って課題の本質を捉えて、的確な対応とチームの納得感を醸成する一助になれば幸いです。

事業と組織に当事者意識を強く持つリーダーやマネージャーにとって、「あの人、仕事できないな」という発言は完全にブーメランなんですよね。そしてそれは、貴重な改善のチャンスを見逃すことになります。

「あの人は、能力不足だったから仕方ないよね。」という言葉は、要するに「私は良い組織を創る気がありません」と言ってるようなものです。

その人を採用したのも自分(または自分の上長)だし、その人を育成したのも自分だし、その人をチームに組閣したのも自分だし、普通の人でも活躍できる仕組みを創れていないのも自分だし、その人のいる会社に身を置くことを選んでいるのも自分なわけです。

起きた問題の解釈と未来はいかようにも変えることができるので、内的要因に対して自分にできることに集中していきましょう。