上場(IPO:Initial Public Offering)とは何か?10の視点でまとめる。
【1】上場=みんなで経営する
上場の本質は「社会(コミュニティ)への権限移譲」だと思う。非上場の会社をプライベートカンパニー、上場している会社を「パブリックカンパニー」と呼ぶ。その会社を応援する人たちが、会社の所有者になり、みんなで一緒に経営していく。社会の共同資産としてみんなで育てていくのが上場の本質である。
株主数が多い、という意味では、最近では株式投資型クラウドファンディングによって300名程度の株主で経営する未上場企業の経営も可能になってきていたりもする。すなわち、株主を増やしてコミュニティで経営をしたいという理由だけなら無理に上場せずとも実現しやすくなってきている。
【2】上場=資金調達
上場とは株を発行して資金調達することである。もちろん、認知や信頼の向上、採用力向上という副次的な効果もあるが基本的には上場の目的は「さらなる事業成長のための資金調達」であるべきである。ところが、それ以外の要因で仕方なく上場することも少なくないので話がややこしい。
【3】上場は貧乏人がすること
アパホテル代表の元谷さんの格言に「上場は貧乏人がすること」という言葉がある。これは極端な考え方ではあるが、一定の真実ではある。実際、企業が上場する最大の理由は資金調達。事業に必要な潤沢な資金があれば、上場する必要性は少ない。
【4】同じ事業でも5倍の価値になる
一般的な事業の価値は、年間の営業利益(厳密にいうと減価償却を差し引いた実態のキャッシュフロー)の3〜5年分と言われる。つまり、年間100万円利益がでる事業は300万円くらいの価値があることになる。300万円で買っても、3年間で生み出される利益で投資回収できるみたいな思考回路で投資家は考える。
ところが、上場すると話が変わる。日経平均のPERは12〜18倍。つまり18年分の利益と事業価値が算出されるようになる。年間100万円の利益を出している会社が1800万円の価値になる、ざっくり、上場するだけで事業価値が3〜5倍くらいになる。成長性が高い上場企業は、より高いPERで株価がついている。この差を利用して、未上場の企業を自社のPERよりも低い倍率で計算した時価総額で買収すれば、雪だるま式に事業成長させることも可能になる。GENDAさんやSHIFTさんがその代表例。
【5】年間5,000万円くらいかかる
上場を維持するには年間数千〜数億円かかる。例えば、50人の企業だとしたら、上場すると1名あたり100万円分のコスト増になる。すなわち、上場しなければ年収を1人あたり100万円増やせるかもしれない。それでも企業が上場するのは、上場維持コストを補ってあまりあるメリットがあるから。大きな資金調達をして、事業成長を加速できる算段があるから。
【6】上場は年間100社しかできない
東証の上場の入り口は狭い。上場準備している会社は1,000社ほどある。実際に上場できる企業は年間100社ほど。上場したくてもできない可能性も高い。
【7】年間50社が上場廃止している
上場したら、ずっと上場しているわけでもない。上場廃止している企業が年間50社ほどある。上場を目指すなら、上場廃止するワーストシナリオも見据えた方が良い。
【8】上場=VCのEXIT機会
上場はVCにとって株を高く売る出口になる。
【9】上場≠ゴール
上場は「結婚」と似ている。結婚したことがない人は、「結婚すれば幸せになれる」と勘違いしやすい。残念ながらステークホルダーが増える分、使える社会資源は増えるが幸福のマネジメント難易度はむしろ高まる。
上場を目指して頑張ることは素晴らしいことだけど、上場はゴールではない。むしろ公器として、さらなる社会貢献をしていくためのスタートとしての意味合いの方が強い。
【10】上場して不幸になることもある
SOの償還期限やVCに焦らされて仕方なく上場した場合、上場直後にVCが売却した株式を買ってくれる機関投資家がつかず、一気に株価が急落することが少なくない。そうすると、不幸な想いをする人が増えてしまう。